「三島は東海道の宿場だけのことはありますね~。町に活気がある。」関東鳶職連合会の慰霊伊勢参拝の帰りに一人で三島に立ち寄ってくれた寺本さんが言った。平日の昼間でも、桜家の前には行列ができている。「ここは特別なんですよ。不景気風が吹いていたときも、ここだけばいつも人が並んでましたからね。」
店内はバリアフリーではない。トイレに行く女性が、壁に手を突きながら階段を下りているが、誰ぞが付添うでもなく一歩ずつ自分のペースで歩いている。磨きこんだ急な階段はツルツル滑るのに、2階席へも文句ひとつ言わずに上がっていく。不思議な店だ。ランチタイムサービスなんていうものはなく、昼でも夜でも一律にうなぎの枚数で値段が決められていて、高いと量が多い。一人前4000円近くするお昼ご飯を食べに来ているのに、店内はお客さんの出入りが頻繁で常にガヤガヤしているし、仲居さんもバタバタしている。普通に考えれば、4000円も5000円もする食事をしに来てるのに、なんて愛想無しなんだろう!?と思うかもしれない。が…、
「これは並んでも食べに来た甲斐があったと思えるわ。」うな重を一口食べた叔母が言った。伯母は三島生まれで旧東海道沿いの清水町に住んでいるが、桜家に来たのは2度目。広小路駅の踏切を待っていたときに偶然(私の)母に会い、一緒に食べていきなさいと引き込まれた時と昨日。「踏切近くに漂う、うなぎを焼く煙と匂いだけで私は充分」と言っていたのに、お重の前に運ばれてきた「うざく」という白焼き鰻とキュウリの酢の物と、「鰻の肝の時雨煮」を食べて、既に感激しきりだった。
お店で鰻を食べたのはとても久しぶり。スーパーの鰻を美味しく食べる方法もあるけれど、やっぱり全然違うなと思った。媚びなくても、貫き通すものが確かなら、わかる人には通じるということを、細長い店の熱い空気の中に見た気がした。何でもかんでも、人にやさしくあればいいとは限らない。